5.好奇心が持続・拡大する事例②
スリルを感じる指標
前のページでは、意外性が好奇心を持続させることを述べた。この意外性を明確に認識するには、あるアイテムが必要だ。このページでは、そのアイテムが具体的にわかる事例を示したい。
私は娯楽として、よくパチスロ(メダルゲーム)を打つ。大学時代に友人に誘われてやり始めたものだ。元々ゲーム好きで、自宅にある据え置き型のゲーム機で遊んでいたが、パチスロを覚えてからはパチンコ店で遊ぶことが多くなった。
パチスロのメダルの出やすさは、台毎の設定で差がつけられている。メダルの払い出しの推移や特定絵柄が揃う頻度など、台の設定を予測する要素は色々ある。それらが多くのメダルを獲得するための攻略要素となり、ゲームを面白くしている。そして、スコアが最終的に金額となる点がゲームを熱いものにする。
私もすっかりその魅力にはまってしまい、20年以上たった今でも飽きずにパチスロで遊んでいる。そして、このパチスロがきっかけで、さらに別のものに興味を抱くようになった。それが株式投資とFXである。
株式投資を始めたのは、就職して10年ほど経ってからだ。お金に余裕ができたことで、パチスロで動く数万円より、もっと大きく金額が動くゲームを探していた。そんな時、すぐに頭に浮かんだのが株だった。思い立ちすぐに証券会社に口座を開き、200万円の元手で投資を始めた。
株式投資を始めてから1年後には、FX(為替証拠金取引)に手を出すようになった。FXは、通貨間のレート変動で利益を狙うものだ。手持ちの資金(証拠金)の数十倍の金額での取引が可能で、株式投資に比べてハイリスクではあるが、小さい値動きでも大きな利益が出せる特徴がある。
実際に株やFX投資をやってみると、予想外の値動きに翻弄され、多額の損失を出したり、想像以上に利益が出たりで、ドキドキハラハラすることが多かった。このような興奮が、株価や為替レートの変動に影響する、政治、国際情勢、経済などのニュースに強い興味を抱かせることになった。そして、現在も飽きることなく情報収集と分析、投資行為を繰り返している。
この事例の重要なポイントは、スリルを感じる指標を持つことが、興味を持続・拡大させる上で大切だということだ。この事例で言えば、不確定要因が影響するゲームスコアとしての金額である。この金額の大きな変動が、私に意外性を明確に意識させ、強い興奮を引き起こした。そして、大きな金額を獲得する方法を知りたいという欲求を生みだした。
当初は、スコアとしての金額が0の据え置き型ゲーム機で遊んでいた。その後、ゲームの対象がパチスロ、株式投資、FXへと、どんどん大きな金額が動く対象へ連続的に広がっていった。また、情報に対する関心も、単純なゲームの攻略要素から、政治や経済へと広がっていった。
行動の結果が具体的に数値や位置で把握できる指標があると、人は自然とその指標に願望としての目標を設定するようなる。そして、行動の結果が、目標とのズレとして具体的に指標に現れると、その意外性に一喜一憂し、スリルを感じる。
このスリルが、人に、その指標を変動させる要因への強い興味を抱かせ、指標の値を最大化する方法を探させる。その過程で、人はその指標に関連する様々なものを連想し、調査すべき興味対象を広げてゆくことになる。
実は、前のページの私のエンジニア時代の事例でも、製品特性という具体的な指標があり、実験で得られた特性と目標特性との差が意外性を明確に意識させ、興奮を起こす元になっていた。
飽きることなく、好奇心を持続・拡大させるためには、意外性を具体的に認識できる指標を持ち、その指標が新たな着眼点を生み出し続ける仕組みを作る必要がある。次のページから、その仕組み作りの方法を示してゆく。